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小澤 悠 総合商社 社員・ANOTHER TEACHER 代表

「正解にする力」が
日本を元気にする

Photography: Yuji Kanno(spoke inc.)

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小澤 悠

中高をインターナショナルスクールで過ごし、早稲田大学ではトライアスロンに励む。文武両道な小澤は、いま総合商社に勤めながら教育領域で新たな取り組みを推進している。彼がなぜ2つのキャリアを歩むことになったのか、そしてそこで何を得たのかという話を訊いてみた。

父から学んだ「自ら選んだ道からは逃げない」姿勢

子どもと大人が垣根を超えて学び合うコミュニティ「ANOTHER TEACHER」を総合商社に勤めながら主宰する小澤のキャリアの原点は、父親にあるという。
 中小企業の経営者である父親は、いわゆる大企業に勤めたキャリアがなく、叩き上げだ。そんな父親の背中から学んだことは「自ら選んだ道からは逃げない」という姿勢。仕事に熱心に打ち込む父親に物心ついたときから憧れを感じていた小澤は、金融危機のときにまさにその父親の生き様を目の当たりにした。
 小澤の大学受験と妹の音楽学校受験が重なる中、各方面から様々な重圧を受けつつも父親の会社は数年後に過去最高益をあげた。時代を言い訳にせず、諦めずに仕事と真っすぐ向き合う姿勢は結果として社員やその家族を守ったのだ。憧れの存在でありながらもその父親を超えたいと思うようになった小澤は「総合商社」という父親とは異なるキャリアを選択した。

やりたいことを仕事にする

総合商社でキャリアをスタートした小澤は「入社してからの4年間は暗黒の時代だった」と語る。順風満帆だった小澤の人生に訪れた初めての大きな挫折。小澤自身でもわかるほど配属先の仕事で成果を出すことができなかった。「数字の勉強をしてこい」と上司に言われ異動した先においてはさらに仕事ができず自らに価値を見出すことがまったくできなくなっていた。
 会社を辞めようと決意し転職活動をはじめ、コンサルティングファームから内定をもらったとき、次の職場の上司から言われた言葉で小澤はハッとした。「仕事が楽しくないのを会社のせいにしていないか。もし辞めるなら何かをやり切ってからやめたらどうだ」。何も言い返せなかった小澤は「この会社を変えたい、この会社で働いている人たちをワクワクさせたい」という想いを伝えその上司のもとで働くこととなった。
 自らが、価値があると信じたことを実践する。それは総合商社における新しい働き方や制度の実現という成果につながった。会社のため、そこで働く人のために貢献できているという実感は“人をつなぎ、人と向き合い、人を巻き込み、まずは自ら行動する”といった小澤の強みを明確にし、新しいキャリア観へとつながっていった。

みんな誰かの“せんせい”「ANOTHER TEACHER」

「いまの日本は子どもも大人も元気がないと感じたことがはじまりだった」と小澤は言った。きっかけはとある学校でキャリア教育を実施させてもらった際のアンケートだった。回答の中に見つけた「小澤さんは元気でいいですね、自分の人生はつまらないです」という子どもの心の声に小澤は気づかされた。「働いている大人の元気がなければ、子どもも夢を失う」と小澤は語る。
 子どもが未来に希望を持てない社会を変えたい。そのためにはじめた2つ目のキャリアが子どもと大人が垣根を超えて学び合うコミュニティ「ANOTHER TEACHER」だ。誰もが他の人にはない知見や生きてきた中でのオリジナルなストーリーがあり、世代や資格、経歴は関係なく互いに教えあえるという考えのもと、2つの当たり前をつくりたいという。1つ目は中高生と社会人という世代間の断絶をなくし当たり前に互いが交流できる社会の実現。2つ目は職業や肩書も関係なく誰もが“せんせい”になれる「“せんせい”の民主化」の実現。

 実現に向けては“フェアであるかどうか”という視点を小澤は大切にしている。10年後の日本について中高生と大人がチームを組んで考えるワークショップでは、互いが気づきもしないアイデアが飛び交い、子どもも大人関係なく頼り合う・認め合う・尊敬し合うシーンがあるという。また、プログラムの枠を超え、新たなコミュニティや次なる活動につながることもあるとか。そんな世代や組織の壁がないフェアな瞬間を創ることがいまの小澤にとって何よりも喜びとなっている。
 ANOTHER TEACHERの活動を通じて小澤の中にも変化は起きていた。かつて、ただただ憧れていた父親の存在は、自らが社会で経験を積む中で改めて父親の凄さを認識し、尊敬する存在へ。そして、『いつか仕事でコラボできたら』といった話も互いにできる関係になっているようだ。

 最後に小澤は言った。「人生に不正解なんてない。自らの歩んできた人生のストーリーを、自らが正解としていくために行動をすることこそが今の時代を生き抜くために必要なのではないか。大人たちが元気に行動する姿を子どもたちに見せることで元気な社会になるのではないか」と。

小澤 悠

総合商社・ANOTHER TEACHER 代表
1990年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、2013年総合商社へ入社。本業の傍ら2019年よりANOTHER TEACHERを主宰し、代表を務める。