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石倉 秀明 株式会社キャスター 取締役COO

開かれた社会を目指して

Photography: Yuji Kanno(spoke inc.)

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石倉 秀明

「リモートワークを当たり前にする」というミッションを掲げ、オンラインアシスタントサービスをはじめとし、新しい働き方の在り方を提案する株式会社キャスター。キャスターで取締役COOを務める石倉は「世の中の働く環境でおかしな制度や慣習は多い。それを正常化し、新しいあたり前をつくりたい」という。本来あるべき働き方とは何か。石倉がそう考えるようになった経緯、そしてこれからの社会に対する期待や想いについて話を訊いた。

自らの軸でキャリアをつくる

石倉のキャリアは個性的だ。リクルートHRマーケティング入社、HR領域の営業からスタートし新規事業や企画を担当。2009年創業期のリブセンスに入社し、ジョブセンスの事業責任者として史上最年少上場に貢献。その後、DeNAでEC営業統括、新規事業、採用責任者などを歴任。そして2016年よりキャスターで取締役を務めている。いずれも勢いのあるイメージの会社だが、企業の創業期、成長期、成熟期と異なるステージで活躍しているのが特徴ともいえるのではないか。石倉がどのようにキャリアをつくってきたのか、そしてそこで何を経験し、何を得たのかを一度振返ってみたい。

 リクルートHRマーケティングではチームを崩壊させたことがあるという。営業成績がトップだった石倉はチームリーダーに抜擢されたが、部下が目標を達成できない理由を理解できなかった。それは売れない人の気持ちが分からないこと、石倉にとって当たり前のことでも、部下にとって当たり前でないということに気づいた瞬間でもあった。仕事との向き合い方はひとそれぞれであり、自らの価値観を押しつけないといった石倉のマネジメントに対するひとつの考えはここがはじまりであったのかもしれない。

 2008年、未曾有の危機が訪れる。世界規模に起きた金融危機の影響は人材マーケットも一変させた。その時石倉は、このタイミングで人材を採用している会社はきっととんでもない経験ができる会社に違いないと考えたという。
 そして、まだまだ駆け出しのベンチャー企業であるリブセンスへ。そこでは上場するまでの目まぐるしく組織が変わっていくプロセスをジョブセンスの事業責任者として推進。その達成感の先にあったのは、心地よい組織。自らがつくった仕組みで働くストレスを感じない職場は一定の安定感を生み、成長を実感することはできなくなっていた。
 自らをストレッチするために選んだ転職先はその当時もっとも勢いのある会社と謳われていたDeNA。そこでは人材・環境はもとより求められる仕事のレベルが非常に高く、今までにないスピード感で業務がまわっていた。入社した当初の自分と半年後の自分は明らかに変わっていた。半年前に作った企画書を自分で見てもイマイチだなと思うほどの変化だった。周囲にも石倉が圧倒的される優秀な人材が集まっていた。その彼ら彼女らとともに仕事する緊迫感が大きかったが、彼ら彼女らのひとつひとつの言動が石倉にとって何よりも学びであった。振り返ってみると人生で最も忙しくストレスフルな環境でもあったが、そこで得たものは圧倒的な成長であった。

開かれたコミュニケーションがリモートワークを当たり前にする

2016年キャスターに参画した石倉はリモートワークという新しい働き方と出会う。電車で会社に行って会社のデスクに座って仕事をしていた石倉にとってそれは新しい気づきにつながった。能力は変わらないのに、働く場所で待遇が変わるということ。男性と女性、東京と地方、正規雇用と非正規雇用、会社に来る人と会社に来ない人。能力ではない属性で人材の価値や待遇が変わる。そして、成果を出せる人は働く場所がどこであっても成果を出せるということも認識した。
 「日本の働く環境において人材の価値評価の基準は明らかにおかしい。おかしいのであれば、おかしくない場やルールをつくる。意味の分からない差をなくし、働く人が正しく評価される社会をつくっていきたい」と石倉は言う。

 キャスターでは約700人の社員がほぼ全員リモートワークである。場所を選ばない働き方を推進し、それぞれの働き方を尊重する。「いまでこそ、リモートワークが浸透してきたがそのリモートワークをまだうまく使いこなせている会社は少ない」と石倉は真剣な眼差しだった。
 そんな石倉にリモートワークのメリットや定着させるためのポイントを尋ねてみた。「コミュニケーションツール以外はオフィスと何も変わらない。相談したいことがあれば上司が戻ってくるまで待つということをせず、チャットを使いメンバーが相談したいタイミングで相談できる。そんなこともリモートワークならではのメリット。リモートワークを推進する上でのポイントはひとつ。コミュニケーションを閉じないことが何よりも大事。みんなに見える開かれたコミュニケーションは、オフィスの執務エリアと同じですから」と石倉は語った。

 いまの石倉にとって子どもとの時間が何よりも楽しいという。子どもの送り迎え、家族全員揃っての食事、それはリモートワークでなければ叶わなかったことかもしれない。そんな石倉がいま考えている未来について訊いてみた。「『昔はみな満員電車に乗っていたらいしいね』と20年後に子どもから言われる社会にしたい。そして、それを実現したのがパパの会社だよと言えるようにしたい」と石倉は笑いながら答えた。

石倉 秀明

1982年群馬県生まれ。株式会社リクルートHRマーケティング、株式会社リブセンス事業責任者、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)EC事業本部営業責任者、新規事業・採用責任者を経て、現職。2020年「コミュ力なんていらない」(マガジンハウス)、「会社には行かない」(CCCメディアハウス)を出版